巣箱の置きかたと注意点 その2

5月のブログで取り上げた分蜂行動はミツバチの自然な欲求です.ミツバチは単独では生き延びられない社会性昆虫,大きなコロニー内の一員として生きています.ミツバチが末永く繁殖していくためにコロニーは分割してふえていく必要があり,それがまさに分蜂行動なのです.一方,養蜂家にとって,これまで育ててきた蜂群から女王蜂と半分の働き蜂が飛び出してしまい,それを回収できなかったら痛恨の極み.分蜂行動をうまく調整して,蜂を失うのでなく,増やしていけるようにしたいところです.

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巣箱の置きかたと注意点 その1

米国のAmerican Bee Journalと Bee Cultureをはじめ,中国,アルゼンチン,トルコなど世界の養蜂大国では月刊養蜂雑誌が発行され,飼養技術をはじめ養蜂関連情報が公開されています.初心者がミツバチを巣箱で飼養するなら,始める前に知っておくべきポイントなどもくりかえし取り上げられますが.養蜂実技に関する書籍が不思議なほど少ししか出版されていない日本では,目にする機会が少ないので,ほんの一部ですがご紹介しましょう.

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ミツバチヘギイタダニとバロア病

ミツバチヘギイタダニに感染した蜂群はすみやかに適正な対策が施されないと,しだいに勢いが弱まります.採餌,育児,巣の防御など通常の活動機能は低下していき,やがてコロニー全体が機能不全に陥る蜂群崩壊へと向かいます.このダニの存在は必ずしも目立つ訳ではないので(多くの時間を有蓋巣房内ですごす),突然蜂群がだめになって養蜂家は不意を突かれることになるのです.

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ミツバチヘギイタダニは強力な害敵

ミツバチヘギイタダニ(バロアダニVarroa destructor (Anderson and Truman))は ミツバチ成蜂と幼虫の体外に寄生するダニです.過去数世紀にわたり世界のミツバチの最も手ごわい害敵であり,生来の対抗手段をもたないセイヨウミツバチはとくに深刻な被害を被っています.その寄生数が上昇すると,ミツバチコロニーはバロア病と呼ばれる一連の症状を発症し,的確な対策がなされないと,この蜂群は2~3年のうちに死滅するでしょう.

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分蜂シーズンの到来 その2

 新たに出房した若い女王蜂は交尾飛行から戻り,産卵を開始すると巣内にとどまります.ローヤルゼリーを十分に与えられ,大きな腹部から産卵の日々.ローヤルゼリーは完全に消化されるので,糞をするために巣の外に飛び出ることもないのです.ところが分蜂準備が始まると,働き蜂から女王蜂へのローヤルゼリー給餌が控えられるようになり,女王蜂は腹部がほっそりとなります.

 写真右上の女王蜂,腹部は普段これほど大きくなっています.

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分蜂シーズンの到来 その1

 大学生になれば5月のゴールデンウィークに大いに楽しめると思っていました.ところが,「ミツバチ研究分野の教員や学生に連休などありません.分蜂群を至急回収して欲しいとの依頼にそなえ,準備して待機するのです」ときびしい言葉を聞かされました.もう半世紀ほど前の話ですが.

 写真は分蜂が起きる数時間前のある蜂場の様子です.良い天気で花盛り.

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春になったら蜂が増えて

「私の蜂場周辺にはアブラナ畑があり,いつ開花するか,その成長を注意深く見守っています.それで,私の蜂群に上置き巣箱を追加するのは,いつ頃がベストでしょうか」.この質問をした方はたとえば,「菜の花が5分咲きになった頃に,2段群にするのが良いでしょう」という分かりやすい返事を期待したのでしょうか. 

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春を待つ日々  その2

 Bee Craftは月刊雑誌なので,季節に合わせた蜂群飼養管理技術をかなり具体的に毎号掲載します.花粉媒介昆虫の危機を理解し,彼らに必要な環境の保全にも協力しようとの思いから趣味養蜂を始めた,入門レベルの購読者が近年多数いるので,ベテランが自分のノウハウを開示する連載記事なども.概して英国人は分かり易く教えるのが好きだし,うまいですね. 

 さらに購読者にはほぼ毎週,お役立ちメールがとどきます.

写真は昨年2月号の表紙.こうして巣箱を開けてゆっくり内検できる春の到来を今か今かと待っているのでしょう.

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春を待つ日々 その1

 ひどい冬ですね.昨年末から米国は記録的大寒波におそわれて,日本にも低温と冬の嵐が繰り返し来襲して,野菜が高騰.遅れた梅も開花しはじめ,私たちはやれやれ春がもうすぐだと期待する2月末に,寒波がこんどはフランス,イギリスをめがけて東から吹き出しています.

 越冬してきた蜂群が春を前に活動を始めようという冬の終わりは,ミツバチに一番厳しい,難しい時期です.そこに寒波で大雪!? イギリスのミツバチは大丈夫でしょうか.とても心配です.

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クシュマン氏のビースペース考察 その2

 ◇7ミリの空間:ミツバチ自身ではなく人間が器材設計などの場面で有効なビースペースとして採用している.巣枠の上桟の両端と巣箱側面にこれだけの隙間が確保できれば,ミツバチがロウとプロポリスで固着しようと励むのと戦う面倒から逃れられるだろう.

 今月の写真はセイヨウミツバチ自然巣の存在を知らされて,対策にはせ参じたミツバチ研究者たちと複葉の立派な巣の様子です.密集した松葉にまもられた大きな自然巣で,このように巣板間のサイズを測る機会はめったにありません.

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クシュマン氏のビースペース考察 その1

L.L.ラングストロス師が「ビースペースを発見した」とか中には「発明した」と書いてあるものを見たことがあるが,もちろんそれらは正しくない.ミツバチ自身がビースペースを編み出したのであり,人間もそれを遙か昔から知っていた.ただそれをふまえて,巣箱での飼養にきわめて有効な方法を開発したのがラングストロス師なのだ.

http://www.dave-cushman.net/bee/bsp.html

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ビースペースと近代養蜂

ラングストロス師は1852年に最初の可動巣枠式巣箱を制作,飼養試験を開始しました.ビースペース概念をふまえた可動巣枠式巣箱と,この可動巣枠をいれた箱を積み上げる方式の巣箱の開発により,養蜂は家内工業から大規模な産業へと大きな変貌をとげて,広く豊かな国土に恵まれる米国では1800年代末までに数千群の蜂群でハチミツ生産をおこなう養蜂企業家が数名出ていたということです.

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ビースペースとは

木の幹にできた洞(うろ)など,閉鎖空間に複数の巣板を作って暮らすミツバチ(セイヨウミツバチ,ニホンミツバチをふくむトウヨウミツバチ)は,コロニーに必要な仕事をするために多数の蜂が巣板から巣板へと歩き回ります.「ビースペース bee space」とはミツバチが自然巣内で隅々まで自由に行き来できるように残しておく隙間のこと.この空間をミツバチがプロポリスをつめこんだりあらたに巣房をつくって,埋めてしまうことはほとんどありません.

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ミツバチコロニーと女王蜂 その4

新しい女王蜂は旧女王が産んだふつうの受精卵から育ちます.ふ化後3日以内のごく若い幼虫から選ばれて,多くの仲間とは異なる道を歩み出します.

コロニーが新しい女王蜂をそだてる道筋は3通り,すなわち緊急時の変成王台,女王蜂交代,そして蜂群繁栄への王道である分蜂の準備です.

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ミツバチコロニーと女王蜂 その3

2番目に大切な女王蜂の機能は,数種のフェロモンの分泌で,この化学物質がミツバチコロニーをまとめ,協働してそれぞれの役割を果たすべく動かす,社会を束ねる働きを持っています.

”女王物質”とも呼ばれる主要なフェロモンは, 大顎腺から分泌されますが,他にも重要なフェロモンを女王蜂は出しています.

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ミツバチコロニーと女王蜂 その2

 女王蜂は通常コロニーに一匹だけです.でも例外的に分蜂や女王交代の準備時期には複数存在する時間があります.女王蜂だけが性的に成熟した雌なので,求められる第一の機能は順調な産卵.越冬を終えた春から夏の初めまでの時期には連日多数の卵を産み続け,1日に最大1500個を巣房に産み付けます.

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ミツバチコロニーと女王蜂 その1

ブログの数がふえてきたので,各ページにキーワードをつけて内容を分けてみました.右上にボタンがあります.

ミツバチの基本的なはなしのうち,これまでに働き蜂は取り上げてありましたが,女王蜂についてはまとめていなかったので,今月と来月に書き込もうとおもいます.

多数いる他の蜂とはかなり異なる一生をおくりますが,決して独裁者のように君臨統治しているわけではないんです.

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季節変化とミツバチコロニーの活動 2-冬

気温が14℃くらいに下がると,ミツバチはそれまでより密に集合し,蜂球を作ります.ミツバチが発する熱により,蜂球内部の巣板では蜂児(卵,幼虫,蛹)が34℃ほどに暖かく守られています.女王蜂の産卵は徐々に減り,10月か11月には,まだ巣板に花粉が蓄えられていても,完全に止まり女王蜂の体はほっそり.寒い冬はコロニーが蓄えと仲間をたよりに生き延びる厳しい我慢の時間です.一方,寒くならない亜熱帯,熱帯地域や冬も穏やかな気候の地域では,女王蜂の産卵と蜂児の生育が休みなく続きます.

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季節変化とミツバチコロニーの活動 1-秋

蜂群の活動は季節に応じてかわり,9月から12月がミツバチコロニーの新年といえるでしょう.秋に多くの若い蜂をえて,たくさんのハチミツと花粉を蓄えられるかどうか.この時期の状態が1月以降の蜂群の盛衰の鍵を握ります.

アメリカのMAARECは私が頼りにしている尊敬すべき情報源のひとつで,今回はその充実した記事のほんの一部をご紹介します.

https://agdev.anr.udel.edu/maarec/honey-bee-biology/

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自然と養蜂 -その3-

ただ,前述の「自然な」という言葉の食品規格策定で懸念されるのと同様に,「自然養蜂」をうたうときに従来の一般的な養蜂手順との違いを強調して,可動巣枠式巣箱はつかわない,ミツバチに彼らが望む巣房サイズで巣板を自作させるなど,その方法がやや極端になりがちです.一般的な養蜂手順は自然な養蜂ではないのでしょうか?

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自然と養蜂 -その2-

養蜂は亜寒帯から熱帯まで世界の様々な気候のもとでおこなわれています.どれほど草や樹木が開花して甘い蜜を出していても,人間の手でそれを大量に集めて甘みを味わうことはできません.けれども何百万年も地球に生息し,環境の変化にも適応して進化してきたミツバチの知恵と力を借りれば,地域の自然が生み出した貴重な資源を,滋養豊富なハチミツとして人間が活用できるようになるからです.

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自然と養蜂 -その1-

アメリカの養蜂雑誌Bee Culture に興味深い記事がありました.合衆国の消費者の三分の一が,製品にラベルされる「自然な」とか「有機栽培の」といったことばが何を意味しているのか,その具体的な中身がよくわかっておらず,また/同時に 政府が規定するその基準の違いなどを知らないという,ある調査結果の報告です.

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ミツバチを通して深く幅広く

ハチミツは大昔の人類が口にした最初の圧倒的な甘味,古代社会では高価で貴重な交易品として,はるかな地まで運ばれていきました.蜂ロウは上質なロウソクとしてだけでなく,武器等の金属加工に不可欠な素材でした.ミツバチと人との関わりには長い歴史があり,Eva Crane 博士の大著The world history of beekeeping and honey huntingには,先史時代から続く養蜂の歩みが世界各地の事例で紹介されています.写真はCrane博士の業績をたたえて制作されたリトグラフです.

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ミツバチは危険動物!?

でも日本では学校や父兄の側に「ミツバチ=刺す危険な動物」との拒絶反応がまずあります.たしかにスズメバチ,アシナガバチ,ミツバチなど蜂類に刺されて命を失う人が毎年約20名いますので,無視できません.ただ刺害事故は体が大きく,毒性もつよいスズメバチ類で多く発生し,特に8月から10月までの間に集中しているそうです.

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ミツバチで多様な学びの機会を

100年以上前から,子供らが自分たちで責任を持って動物を飼育することが,日本の教育現場で積極的に奨励されてきました.でもミツバチ巣箱がある学校や,養蜂家の蜂場を訪ねる体験教室のような機会は,欧米に比べ日本はかなり少ないようです.なぜでしょう.写真は英国養蜂協会が制作した,ミツバチと親しむ授業のための資料.Bees in the Curriculumです.

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ロイヤル・ハイブはいかが?

強力な天敵スズメバチがいる日本とちがい,英国でセイヨウミツバチは在来種,本来野生で生きのびられます.ミツバチや他のハナバチ類が窮地に陥った原因の一つが,望ましい営巣場所と良好な養蜂植物の不足.英国は森林を切り倒したら再生しにくい地理環境,草原にミツバチは営巣できません.そこで季節ごとに美しく花を咲かせる個人の所有地に居心地よい営巣場所(巣箱)を新設すれば,多くの群が無事に越冬,自由に自然に分蜂し,健康な野生群が増え,環境も養蜂も支援できると考えられました.

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自然養蜂と巣箱

2010年に英国で蜂群越冬率が数年続して悪く,農作物の花粉媒介に必要な蜂が不足,養蜂家は議会にデモ行進して窮状をアピール.これを契機に「ミツバチを救え」を合言葉に,多様な組織による支援活動が開始.そのなかに,現在のハチミツ生産とポリネーション主眼の集約的な養蜂ではなく,もっと自然な,粗放的な養蜂でミツバチの健康を回復させようと主張する人たちがいました.

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自然養蜂と分蜂

能登でも3月下旬には女王蜂が再び産卵を開始,越冬した働き蜂は最後の力をふりしぼり,咲き始めた花から花粉と花蜜を集めました.やがて新しい働き蜂が生まれ始め,4月,5月と蜂群は次第に大きく成長,勢いをつけていきます.養蜂シーズンが始まりました.

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ミツバチの冬は寒さとの戦い  その2

越冬中の巣ではお互いに温めあう多数の仲間と,秋に巣内に貯えたハチミツと花粉が頼りです.無駄なエネルギーを消費すれば,蓄えが底をつく蜜切れとなって,春先に女王蜂が産卵を再開し,ウメや菜の花が咲きだす前に,コロニー全体が飢え死にしてしまう危険があります.

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ミツバチの冬は寒さとの戦い  その1

ずいぶん寒くなりましたね.ミツバチも寒さは苦手です.変温動物なので冷えると体が麻痺して動けなくなってしまうのです.それでもセイヨウミツバチとトウヨウミツバチは,巣の中で恒温動物のように一定の温かさを保ったまま,冬を乗り切ります.

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働き蜂の仕事 ミツバチの分業

ミツバチは社会性昆虫です.2万匹以上もいるコロニーは,一匹の女王蜂,夏ごろに1割くらいみられる雄蜂,大多数の働き蜂(メス)から成り立ちます.コロニーを支える働き蜂は,越冬時期をのぞき一か月間ほどの一生を,成虫になってからの日齢に応じて仕事内容を変える分業体制で働きます.巣房の掃除,育児,女王蜂の世話,食糧貯蔵,巣板の維持管理,巣内の環境調整,門番,食糧や水などの調達,これらの分業は巣箱内で働く「内勤」と外に飛び出す「外勤」に大別され,働き蜂体内の生理的変化と関係しています

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セイヨウミツバチは日本で野生化しない

野生のセイヨウミツバチはアフリカ南端からスカンジナビアまで,熱帯から寒地まで広域に分布しています.人為的に導入された南北アメリカ大陸やオーストラリアでもセイヨウミツバチは野生化して,分布域を広げていきました.

ところが日本では,明治時代にアメリカから導入された後,既に長い年月が経っていますが,セイヨウミツバチは野生化していません.それはなぜか?

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ミツバチは何種いるか

私の手元に昭和31年発行の玉川こども百科(全100巻)の第61巻「みつばち」があります.戦後生まれの子供たちで小学校がパンクしていた頃,学校図書としてミツバチの不思議と養蜂のわざを伝えようと,100ページ余りの本には大量の写真やイラストが盛り込まれました.ミツバチの種類について当時はこう書かれています:

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家畜としてのミツバチ 1

日本には2種のミツバチがいます.一般的な養蜂はセイヨウミツバチを使いますが,ほかに野生のニホンミツバチがいて,これを巣箱に飼う人もいます.自由に飛び回っていますが巣箱で飼われているミツバチは家畜で,農林水産省生産局畜産部畜産振興課に飼育の届けをすることになっており,諸統計の対象となります.

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健康なミツバチ,幸せなミツバチの養蜂 3

ミツバチといえば,まずは花の蜜からつくるハチミツですね.花蜜の主成分はショ糖ですが,巣に持ち帰って貯めるときには,ブドウ糖と果糖に分解して,水分を減らしてハチミツを完成します.自分の食糧としてだけでなく,巣仲間の蜂や幼虫のために,また花の少ない季節や冬に備えて蓄えるのです,

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健康なミツバチ,幸せなミツバチの養蜂 2

地球上で私たち人類より300万年以上先輩にあたるミツバチを追い詰めているものは何でしょう? 「ミツバチが減っている」とよく報道されますが,国内のセイヨウミツバチは微増しています.

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健康なミツバチ,幸せなミツバチの養蜂 1

ミツバチは今から500万年前にすでにハチミツを作っていました.人類より300万年も長くこの地球で暮らしている昆虫です.花から花へ飛び回って蜜と花粉をもらい,かわりに花の受粉を助けて,ミツバチと植物は互いに持続可能な,生命の再生産を支える生態を確立してきました.

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