ビースペースとは

木の幹にできた洞(うろ)など,閉鎖空間に複数の巣板を作って暮らすミツバチ(セイヨウミツバチ,ニホンミツバチをふくむトウヨウミツバチ)は,コロニーに必要な仕事をするために多数の蜂が巣板から巣板へと歩き回ります.「ビースペース bee space」とはミツバチが自然巣内で隅々まで自由に行き来できるように残しておく隙間のこと.この空間をミツバチがプロポリスをつめこんだりあらたに巣房をつくって,埋めてしまうことはほとんどありません.

 巣板の一部に穴を開けて,そこを通るようにすれば,隣の巣板にすぐに移動できるから便利かもと,ミツバチは考えません.かならず巣板の端まで行ってぐるっと回り込むのです.閉鎖空間に作られた自然巣であれば,巣板の両端は周囲の壁に固着されますが,必ず通り抜けるための歩廊が確保されていて,その幅は6-10mmと言われます.

 ビースペースの概念を養蜂に役立てる手法,すなわち巣箱内に「可動式巣枠」を並べるやり方を最初に編み出した功績は19世紀中頃の米国の牧師,趣味養蜂家のロレンゾ・ラングストロス師のものとされます.巣箱の蓋と巣板を作らせるための上桟との間に6-10mmの幅を残しておくと,そこにミツバチが巣を作ったり,プロポリスで埋めようとはしないことを確認したのです.ミツバチには歩き回り,作業するためのこの空間が必要であり,混み合う巣の中でも大切に確保していました.同時にラングストロス師は木製の巣枠にロウでできた巣板を取り付け,その巣枠と巣箱の内壁や底,蓋との間にビースペースを確保しておけば,ミツバチが巣枠の外側を巣箱本体に固着しようとしないので,便利な可動式巣枠として扱えることに気がついたのです.

今日,私たちは古代エジプトの壁画からこの時代の人々もみつばちの巣に保たれる一定の隙間のことを知っていたことに気づきます.それからミツバチを飼いながら何千年もの時がすぎて,ラングストロス師がビースペースを尊重することに着目したことより,やっと大変便利に使える可動式巣枠を実現したわけです.