健康なミツバチ,幸せなミツバチの養蜂 1

ミツバチは今から500万年前にすでにハチミツを作っていました.人類より300万年も長くこの地球で暮らしている昆虫です.花から花へ飛び回って蜜と花粉をもらい,かわりに花の受粉を助けて,ミツバチと植物は互いに持続可能な,生命の再生産を支える生態を確立してきました.


 スペインや南アフリカに今も残る先史時代の岩壁画には,野生ミツバチからハチミツを採集する人の姿が描かれています.比べるものがないほど甘く,薬効があり滋養にとんだハチミツ! 石器時代の人々にとって,岩場に縄ばしごをたらし,ミツバチに刺されながらの作業という危険にもまさる,大きな魅力をもつ貴重な宝だったのでしょう.


メソポタミア地方で始まったといわれるセイヨウミツバチの養蜂は,エジプト,ギリシャ,ローマなど古代文明とともに成長し,聖書では神が約束した豊かな土地として“乳と蜜の流れる地”が繰り返し言及されています.牧草が豊かで,蜜蜂の好む草花樹木が茂り,ミルクとハチミツが存分に収穫できる場所,という意味ですね.やがて養蜂はヨーロッパから世界各地に広がり,ミツバチを飼う技術も進みました.人の暮らしと長い関わりを持ち,ハチミツをはじめ様々なミツバチ生産物を提供してくれるので,ミツバチは100万種以上もいる昆虫の中で最も研究が行われています.


ミツバチなど花粉媒介者(ポリネーター)の減少・不足が世界各地で報告され,日本でも関心を持つ人が増えました.近年,ミツバチなどによる花粉交配が不可欠な農作物の生産が急速に伸びていて,私たちが楽しんでいる豊かな食卓は,働き者のミツバチに支えられているともいえます.そのミツバチに何が起きているのか.このコラムではミツバチとその養蜂にかかわる多様な側面をお伝えし,「健康なミツバチ,幸せなミツバチの養蜂」について考えていきたいと思います.


ミツバチ科学情報サービス(アピシス)
榎本ひとみ

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