ミツバチの冬は寒さとの戦い  その2

越冬中の巣ではお互いに温めあう多数の仲間と,秋に巣内に貯えたハチミツと花粉が頼りです.無駄なエネルギーを消費すれば,蓄えが底をつく蜜切れとなって,春先に女王蜂が産卵を再開し,ウメや菜の花が咲きだす前に,コロニー全体が飢え死にしてしまう危険があります.

 働き蜂と女王蜂は熱を逃がさぬように数枚の巣板上にボール状に密集して静かに過ごします.これを蜂球といい,限られた空間内に蜂が沢山いて蜂球が大きくなるほど,熱効率は良くなります.とは言え越冬中は女王蜂の産卵を休止.活動期の巣箱中心部=育児圏が34~35℃に保たれるのに対し,育児をしない越冬期は省エネで蜂球中心部で30℃以下になることも多く,蜂球の表面は15℃位まで下がるそうです.この温度では越冬中の働き蜂にも辛いものがあるでしょう.寒くなった蜂は蜂球の中心部に入り,別の蜂が交代で表面に出てきます.

 ミツバチの胸部には飛行筋という飛ぶときに翅を動かす強力な筋肉がありますが,飛ぶのでなく,翅を動かさずに飛行筋だけを振動させると発熱できて,これを冬季の熱源にします.まずエネルギー源のハチミツを食べて,飛行筋を動かし,暖かくなるわけです.室温を下げてみんなで固まり,省エネに努力しても,蜂球の温度を保つためにハチミツを1週間で1kg程度は消費してしまいます.セイヨウミツバチとトウヨウミツバチが分布圏を温帯に拡大し,長い冬を集団が生きのびるためには,十分なハチミツをあらかじめためておく必要がありました.

 巣板に花粉やハチミツを蓄える位置はだいたい決まっていて,花粉は育児圏に隣接する上部に,ハチミツはそのさらに上方に溜め込みます.越冬中も蜂の上方であれば,ある程度温まって使いやすいのですが,蜂が少なかったり,貯蜜巣板が蜂から遠い場所にあると,ハチミツは冷えきってしまい,それを取りに行った蜂が飲んだら冷たすぎて動けなくなるなど,まだ蜜があるのにうまく使えずに飢えてしまう場合があります.養蜂家が飼養する群であるなら,貯蜜巣板を含め数枚の巣板に蜂を十分にこませて越冬体制に入ることが最上の対策となります.

 また蜂の様子を心配して寒い時期に巣箱の蓋をたびたび開ければ,そのたびに蜂が努力して暖ためた巣内の空気が失われ,蜂にとっては大きなエネルギーロスです.ここ数年,越冬蜂群の高い死亡率を経験してきた欧米では,越冬中の蜂の負担にならない糖分と(代用)花粉の給餌方法を多数の養蜂家がさかんに提案しています.頑張って越冬してきた大切な蜂群を春先の蜜切れで失う口惜しさは誰でも同じです.皆さん仲間と知恵を出し合い,年々改良を重ねて,相当芸が細かいですよ.