ミツバチを通して深く幅広く

ハチミツは大昔の人類が口にした最初の圧倒的な甘味,古代社会では高価で貴重な交易品として,はるかな地まで運ばれていきました.蜂ロウは上質なロウソクとしてだけでなく,武器等の金属加工に不可欠な素材でした.ミツバチと人との関わりには長い歴史があり,Eva Crane 博士の大著The world history of beekeeping and honey huntingには,先史時代から続く養蜂の歩みが世界各地の事例で紹介されています.写真はCrane博士の業績をたたえて制作されたリトグラフです.

 今日,世界の食糧全体の約1/3がミツバチやマルハナバチなどのハナバチ類の花粉媒介により生産されます.ミツバチは食糧生産を支える,地球上の食物連鎖の欠くべからざる要員なのです.環境内の多様な植物を訪花し,生物多様性の維持に貢献します.社会性昆虫であるミツバチコロニーの仕組みを学ぶと,振り返って人の社会を考えるきっかけともなります.ハチミツ,蜂ロウ,ローヤルゼリー,花粉,プロポリスなどのミツバチ生産物は,昔からの伝統・民間医療から現代の医学・薬学,化粧品,芸術作品,工業製品などまで広く利用されています.
 寒さに強いミツバチ系統カーニオランのふるさと,スロベニアは昔も今も養蜂が盛んな国です.7年前から11月第3金曜日を「朝食にハチミツの日」と定め,養蜂,教育,行政,マスコミが協力して教育キャンペーンを始めました.地元産ハチミツを幼稚園と小学校に通う子供に贈り,甘い味とともに自分の住む地域の環境の価値に幼いうちから気づいてもらおうとの狙いです.ミツバチ関係の多様な情報も印刷物などで毎年配布されて,次のような効果がでたそうです:
◎子ども,先生,一般の人々がミツバチと自然に好感をもっている ◎学校の養蜂クラブに参加する子供が増えた ◎若手養蜂家が増加 ◎ハチミツや他のミツバチ生産物の販売が向上 ◎養蜂家に対する地元社会や企業からの支援
 「朝食にハチミツの日」は2011年に「スロベニア伝統の朝食と国産食糧の日」と拡大,子どもたちに農業,食品産業,養蜂業,環境保全,食育,運動の大切さを伝えています.
 ミツバチをキーワードに,自然から人の暮らしまで多彩な関わりを持つことに気づけるプログラムが日本にもあればよいですね.ミツバチに関係づけて私たちの日常を支える多様な要素を学び/総合的な興味をもつきっかけとなるでしょう.ミツバチと親しめる体験教室,なんとかもっと敷居を低くできないものでしょうか,