クシュマン氏のビースペース考察 その2

 ◇7ミリの空間:ミツバチ自身ではなく人間が器材設計などの場面で有効なビースペースとして採用している.巣枠の上桟の両端と巣箱側面にこれだけの隙間が確保できれば,ミツバチがロウとプロポリスで固着しようと励むのと戦う面倒から逃れられるだろう.

 今月の写真はセイヨウミツバチ自然巣の存在を知らされて,対策にはせ参じたミツバチ研究者たちと複葉の立派な巣の様子です.密集した松葉にまもられた大きな自然巣で,このように巣板間のサイズを測る機会はめったにありません.

 ◇8ミリの空間:少し古い養蜂書などを参考にすると,そこに提示されたビースペースの値の中間値として8ミリを採用したくなる.私もかつてはそう考えていたいのだが,しだいに実は一匹用と2匹用の異なる2種のサイズなのだと気づいて,現在はこちらには9ミリの余裕をとるが,あちらは6ミリでよいというふうに考えるようになった.

 ◇9ミリの空間:有蓋巣房周辺では普通これだけの隙間が確保されている.複数の巣板が並ぶ巣の中心に楕円形に形成される蜂児圏で,内勤蜂が背中合わせになって働くのに十分な広さなのだ.

 ◇9ミリ以上の空間:これはもう無駄巣のための領域となる.

 ◇10ミリの空間:巣箱の内径と巣枠との差として,巣箱設計では実際的な値.たとえば巣箱底板と巣枠下桟の間が1ミリで,巣箱の蓋と巣枠上桟の間が9ミリ.もちろん上下逆さまでもかまわない.余裕をとりすぎに見えるかもしれないが,それは最初だけのことだと,あとでわかるだろう.巣枠両脇の桟は木目が垂直方向なので ,木材の縮みは問題にならない.しかし巣箱側面の板は木目が水平方向であるから,木材が乾燥するにつれて巣箱の高さは縮まるのだ.というわけで,巣箱を使っているうちに内部の余裕は当初の10ミリより少なくなることがままある.

 さらに,何事にも例外はあるわけで,継ぎ箱を重ねているときの最下段では,底板と巣枠下桟との間に30ミリ前後の余裕が,英国の一般的巣箱ではとられており,ミツバチは普通そこに無駄巣を作ったりはしない.これは野生蜂群が木の洞などに営巣するときにも下端には広めの余裕を残すのと同様の考えなのだろう.

 

こうしてみてくると,ミツバチが巣で見いだすいろいろな隙間にどう対処するか,誰かが現場監督となって,設計図を見ながら大声を出して工事を進めるわけでもなく,頃合いの日齢の働き蜂に自ずから自覚がうまれて,サイズに応じた対策を講じ始めるのでしょうから,なんともすごいですね.そのような賢く勤勉なミツバチを相手にしてほぞをかみ,あれやこれや試行錯誤を繰り返した養蜂家が古今東西にどれだけいたのでしょう.もちろん現在もですね.