ミツバチは何種いるか

私の手元に昭和31年発行の玉川こども百科(全100巻)の第61巻「みつばち」があります.戦後生まれの子供たちで小学校がパンクしていた頃,学校図書としてミツバチの不思議と養蜂のわざを伝えようと,100ページ余りの本には大量の写真やイラストが盛り込まれました.ミツバチの種類について当時はこう書かれています:

ミツバチのなかまには野生のものと,人に飼われているものがあり,世界中に知られている主な種類は4つあります.

①最大種 (Apis dorsata F.)インド,マレーなどの暑い国に野生する大型の種類で,長さ1mもある一枚の大きな巣を木の枝に作ります.みつをたくさん集めます.

②最小種 (Apis florea F.)インド,スマトラ,インドネシアなどに野生する小形の種類で,人の手のひらほどの小さな巣を小枝につくります.

③東洋種 (Apis indica F.)インド,中国,朝鮮,日本などに野生する中形の種類です.

④西洋種 (Apis mellifera L.)いま世界中で飼われているのはこの種類です.もともとはヨーロッパや北アフリカの野生のものです.大きい群では数万匹にもなり,よく蜜を集めます.イタリアン品種,カーニオラン品種,コーカシアン品種などが,名高い品種です.

 

その後アジア地域で,伝統的な人々の暮らしに織り込まれていた大小さまざまな野生ミツバチについての研究が進み,現在,世界のミツバチ種は下記の9種にまで増えました.セイヨウミツバチ以外の8種はすべて,アジア地域に分布しており,アジアは世界で唯一,多様なミツバチが生息する地域なのです.

 樹木の幹のうろなど(閉鎖空間)に複葉巣板をつくる

セイヨウミツバチ Apis mellifera

トウヨウミツバチ Apis cerana

(ニホンミツバチ A. cerana japonica

サバミツバチ Apis koschevinikovi

クロオビミツバチ Apis nigrocincta

キナバルヤマミツバチ Apis nuluensis

 樹木の枝など(開放空間)に単一巣板をつくる

オオミツバチ Apis dorsata

コミツバチ Apis florea

クロコミツバチ Apis andreniformis

ヒマラヤオオミツバチ Apis laboriosa

 

9種のうちセイヨウミツバチとトウヨウミツバチだけが,熱帯から寒地まで地球上を広域に分布しており,各地域に適応した亜種や系統があります.日本には養蜂で一般的に使われるセイヨウミツバチと,在来(野生)のニホンミツバチの2種がいて,ニホンミツバチは4亜種が知られるトウヨウミツバチのなかで,北限の生息域に分布する亜種になります. 

セイヨウミツバチは今日広く飼われているので,世界中に元から分布していたと思われがちですが,じつは南北アメリカやオーストラリア大陸には生息していませんでした.ヨーロッパから移住する人々が厳しい開拓生活に備えて,少しでも多くの作物や果樹を実らせ,滋養に富み疲れをいやしてくれる甘いハチミツを現地で入手できればとの期待をこめて.蜂群を携え新天地に向かったのです.日本には明治時代に新しい産業として,セイヨウミツバチを可動巣枠式巣箱で飼う近代養蜂が輸入され,定着しました.

 在来のニホンミツバチによる伝統的な養蜂はそれ以前から行われていて,いまも日本各地で飼われています.巣箱のスタイルや置き場は地方により様々ですが,基本的には空の箱を仕掛けて,そこに野生の分蜂群が入るのを待ちます.セイヨウミツバチによる近代養蜂ほど手間暇をかけない分,ハチミツ生産量は少ないようです.