セイヨウミツバチは日本で野生化しない

野生のセイヨウミツバチはアフリカ南端からスカンジナビアまで,熱帯から寒地まで広域に分布しています.人為的に導入された南北アメリカ大陸やオーストラリアでもセイヨウミツバチは野生化して,分布域を広げていきました.

ところが日本では,明治時代にアメリカから導入された後,既に長い年月が経っていますが,セイヨウミツバチは野生化していません.それはなぜか?

 日本にはキイロスズメバチ,オオスズメバチ,コガタスズメバチなど,スズメバチの仲間という強力な天敵がいるためです.一匹の越冬女王からスタートしたスズメバチコロニーは,夏の終わる頃までに大きく育ち,沢山の幼虫を抱えています.一方,秋めいてくると昆虫の数は減ってくるので,大集団であるミツバチコロニーが幼虫の餌として標的にされやすくなります.

 スズメバチの働き蜂は連日蜂場に通って盛んに飛び交うミツバチをとらえ,またミツバチ巣箱にフェロモンでにおいをつけて,仲間のスズメバチに良い餌場の存在を知らせます.ミツバチは巣箱の入り口を守って盛んに戦いますが,次第に敵の数が増えて,ついに巣箱の中にまで侵入されると,幼虫も蓄えた食料も皆スズメバチに持ち去られてしまい,ミツバチコロニーは崩壊します.

 春や初夏の良い時期に分蜂して,野外に自然巣をつくったセイヨウミツバチ群がいたとしても,秋のスズメバチによる集団攻撃には耐えられず,野生群がそのまま春を迎えることはまずありません.それで日本ではセイヨウミツバチが野生化できないのです.

 養蜂家も飼養する蜂群を守るために,手をこまねいてはおられません.巣箱の出入り口にミツバチは通れるけれど,体が大きいスズメバチは入り込めない装置をつける,魅力的なにおいでスズメバチを誘引する罠を近くに設置する,また補虫網やラケットを振るなどして,スズメバチ対策に努めます.

 気温低下とともにやがてスズメバチコロニーは,単独で越冬する新女王蜂を残して解散します.けれどもスズメバチに対して臨戦態勢となった蜂群は,気が荒くなり,またハチミツや花粉を集める作業がおろそかになります.少しでも早くミツバチコロニーをスズメバチの脅威から解放して,昼間が次第に短くなる中で蜂群が秋の花への採餌行動に励み,若い蜂と貯蜜を増やして十分な越冬準備ができるよう支援できるかどうか,このあたりが来春のシーズン開始を養蜂家が笑顔で元気な羽音とともに迎えられるか,しぶーい顔になるかの分かれ目なのです.

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