ミツバチヘギイタダニとバロア病

ミツバチヘギイタダニに感染した蜂群はすみやかに適正な対策が施されないと,しだいに勢いが弱まります.採餌,育児,巣の防御など通常の活動機能は低下していき,やがてコロニー全体が機能不全に陥る蜂群崩壊へと向かいます.このダニの存在は必ずしも目立つ訳ではないので(多くの時間を有蓋巣房内ですごす),突然蜂群がだめになって養蜂家は不意を突かれることになるのです.

 ミツバチヘギイタダニによる負荷が重すぎて,宿主だった蜂群が死んでしまうと,ダニも寄生できません.そこで巣箱に残されたハチミツを狙って飛来する他群の働き蜂に乗り換えて,ダニは別の蜂群に移っていきます.弱群の貯蜜を別群の働き蜂が盗みにくる「盗蜂」により,ミツバチヘギイタダニの感染が周辺の複数のコロニーに急速に拡大しました.

 ダニの根絶は難しいけれど,寄生数を抑えていけば,養蜂生産を続けられます.ダニが1000匹以下であれば特に害はありませんが,これ以上になると悪影響の危険が増大.コロニーの状態,環境,ダニが媒介するウイルスなどの感染源により被害状況は変わります.コロニー内には多くのウイルスが常在していますが通常は目立つ症状はみせず,疾病発病の原因となりません.ところが寄生ダニなど特定の条件を与えられると,突然に感染したミツバチの健康をそこない,寿命を縮めるようになります.飼養する蜂群を勢いよく保ち,ダニ感染の気配を素早く察知することは,感染抑止・被害拡大阻止の出発点でしょう.巣箱の底板上の巣くずを調べ(写真参照),雄蜂有蓋巣房の蓋を切り落として,中のダニ感染程度をみるなど,感染程度を推測するいくつかの方法が示されています.

 防除対策:飼養する蜂群を健康に,生産性を高く維持するには,ミツバチヘギイタダニの防除が不可欠です.世界各地で養蜂家や企業が無数の試みをしており,選抜されてきた方法には様々なタイプがあるのですが,養蜂カレンダーを考慮して,いくつかを組み合わせた統合的な管理が有効でしょう.

  生物技術的抑制 化学薬剤を使わずに,ミツバチ飼養技術により物理的にダニ寄生数を減少させます.具体的にはこのダニが蜂児巣房内で繁殖することを利用し,罠として準備した雄蜂巣房に侵入したダニを蜂児もろとも,巣板ごと除去する方法が広く使われています.蜂群が雄蜂を生産する春から夏の時期に可能な方法ですが,化学薬剤は避けねばならないハチミツ生産時期でもあるため,この飼養技術による対策でダニの増殖をある程度抑制できれば,おおいに意味があります.

  殺ダニ剤 ダニ対策ではもっとも効果が高く,今日の養蜂では不可欠なものとなりました.日本でミツバチへの使用が認可されているのは「日農アピスタン(フルバリネート)」と「アピバール(アミトラズ)」で,必ずラベル表示された使用法に従うことが求められます.