花はどこにいったの?

 大気汚染は,花粉媒介者を呼びよせるために花が放出する香気成分を変化,劣化させる.そのため昆虫が望ましい花の匂いをみつけてその花にたどり着き,花粉,花蜜を手に入れるまでの時間が増加している,という気になる研究結果が公表されました.CATCH THE BUZZ 7月17日号より

 花々はあまい香りの花束を放出して昆虫などを誘引し,その食糧となる花粉や花蜜を提供する一方で,花から花へと飛び回るかれらの動きを利用して,自らの受粉を確実なものにしようとします.これが花粉媒介についての植物と昆虫との相互関係です.米国ペンシルバニア州立大学の研究者らが,大気中を漂う花の香気成分は汚染物質により変化しており,これに昆虫が対応できていないなら,植物とその花粉媒介者との相互関係に大きな影響をおよぼすと懸念されると指摘しました.

 揮発性の香気成分は,光化学スモッグなどの原因物質であるオゾン,硝酸ラジカル,ヒドロキシラジカルと反応しやすく,その化学成分は変化し,結果として花の香りの煙幕が薄まります.実験では比較的低い大気汚染レベルでも,揮発性の花の香気成分を相当劣化させ,放出された花の香気成分構成を変化させることが判明.また汚染された大気中では,昆虫が花の匂いをかぎつける割合が低下し,採餌行動にかかる時間が増加しました.

 「花はどこへ行ったの?」大気汚染が原因で,採餌蜂はなかなか好ましい花の匂いに行き当たりません.コロニーが必要なだけの花粉や蜜を集めるのにこれまでより多くの時間がかかるのなら,その他の必要な仕事に充てるべき時間は相対的に減少して,一連の深刻な影響をミツバチの暮らしに与えているのかもしれません.

ミツバチのくらす環境に,利便を求める人間の活動が色々なかたちで影を落とし,その原因究明が急がれていますが,この報告は新たな角度からミツバチの苦境を明らかにしている,注目すべき研究だと思います.