ミツバチからの贈り物 - ハチミツ その3 まだエジプトのはなし

 ハチミツは古代エジプトでもっとも使われた医療素材で,さまざまなハチミツ利用法が記録され今日まで伝わっています.

 神殿でミツバチが飼われハチミツを神饌として捧げ,薬や軟膏を作りました.甘いハチミツは,むかつくひどい味の薬効成分を何とか我慢して服用できるように変えるほとんど唯一の成分として,医薬に広く使われたのでしょう.

 

 紀元前1550年編纂のエベルスパピルスの処方箋にはハチミツの外的利用で147処方,内服利用で102処方が見いだされます.眼病予防効果を期待して,目の回りに塗る孔雀石入り緑色の塗料にもハチミツを入れました.

 クレオパトラは美容のためにミルクとハチミツで温浴し,ハチミツに漬けたナッツを好んだとか.またツタンカーメンの墓から出た大量の副葬品のなかに,内容物をそれぞれワイン,オリーブオイルおよびハチミツと示す密封されたアンフォラがあり,ハチミツの壺に添えられたラベルには蜜源や由来,採集日,産地,封印責任者などが記されていたそうです.短い混乱した治世だったでしょうに,重要な生産物の品質管理がここまで行われていたとは驚きです.ワインとオリーブオイルは経年劣化が激しかったが,ハチミツだけは状態が良かったと発見者ハワード・カーターが記録しています.

 ハチミツはまた特に戦いで亡くなった王や将軍の遺体を,持ち帰って埋葬するために,保存する場合に使われました.ハチミツの卓越した保存性が知られており,有力者であれば大量のハチミツの調達が可能だったということですね.紀元前323年にバビロンでマラリアにより死亡したアレクサンドロス大王を故国マケドニアで埋葬するために,その遺体ハチミツに漬けて保存したそうです.大王の葬列にふさわしい台車の準備だけで2年間かかり,移送の途上に後継者の地位を争うプトレマイオス将軍が遺体を奪取し,自国エジプトの首都アレクサンドリアにミイラとして埋葬しました.クレオパトラの死後,アレクサンドロス大王の墓をローマのアウグストゥスが詣でたなどの記録があるけれど,こんにちその場所はこんにちはミステリーとのことです.