北米オオスズメバチ騒動  その2

  米国西海岸ワシントン州では,農業局(WSDA)の昆虫学者達が2019年12月以降,数個体のオオスズメバチをカナダと国境を接するワットコム郡内で確認していました.越冬した新女王が巣を構え,働き蜂を増やしている危険があるので,州民の協力も得て,スズメバチを誘引するトラップ(わな)を各地に多数設置,スズメバチを呼び寄せ,その周囲にあるはずの営巣場所を何週間も熱心に捜索しました.しかしオオスズメバチがスズメバチ類では世界最大サイズであっても,その巣を見つけるのはかなり困難.その巣は土中や木の洞に作られることが多いからです.

 8月になると,トラップで雄の個体が捕まりました.来年活動する新女王も産まれる時期になったのです.営巣場所発見の確率を高めるために,WSDAチームはオオスズメバチを生きたまま捕獲し,その体に無線発信機を取り付け,蜂が帰巣するあとを目視ではなく,レーダーで追いかける作戦をたてました.極小サイズの発信器は米国農務省(USDA)の動植物健康調査サービス(APHIS)から提供されました.またUSDAの農業研究サービス(ARS)が研究開発していた,スズメバチ・アシナガバチ類を効果的に誘引する物質をつかうトラップとその設置の支援も緊急実施されました.ミツバチにとってオオスズメバチが深刻な脅威であることを日本の養蜂家は良くご存じでしょう.夏の終わりに,ほかの昆虫が減ると,ミツバチを効率的な食糧源として執拗にねらいます.仲間を呼び集団で巣箱の中にまで侵入し,数時間の内に根こそぎ奪っていきます.これが米国内に定着してしまったら,人畜に深刻な被害が出るとの懸念の大きさが,国から州へのこれら積極的な対処からも分かります.

  10月21-22日にWSDAチームはARS提供のトラップに飛び込んだオオスズメバチ2匹を生け捕りにしました.さらに数匹を捕獲し,それらに発信器をつけてリリース.そのうちの1匹がカナダとの国境,海辺のブレア市付近の樹木の空洞に帰巣するのをみごとに追跡できたのです.米国内で発見された最初のオオスズメバチの巣でした.多くの場合営巣場所は柔らかな土の中ですが,ここではミツバチの自然巣と同じように,立ち木の洞が使われていました.

 10月24日にWSDAと APHISは万全の装備を調えて,無事この樹木に営巣した群の排除を完了しました.その詳細はつぎのページでお伝えしましょう.