ミード(はちみつ酒) 昔のはなし

ミードをお飲みになったことありますか?日本にはすばらしい醸造酒の世界があるので,ニホンミツバチを飼う養蜂で,ハチミツ酒をつくる伝統はないようです.でも古代には世界の多くの文明でミードが重用されていました.ミードは世界最古のアルコールとも考えられていて,中国,河南省の紀元前7世紀新石器時代の遺跡で,壷の中でハチミツ,米,果物をまぜて発酵した飲み物の痕が見つかっているそうです.

写真は2003年スロベニア・リュブリャナでのアピモンディア開催時に手に入れたミード小瓶です.経年でミードの色が濃くなり,ガラスに書かれたスロベニアの文字が見えにくくなりました.

 ギリシャ,ローマ,バイキング,ロシア,ポーランド,からエチオピアまで,歴史のある時点でミードを飲んでいて,聖書をはじめ,アリストテレスや8世紀の古英語詩ベオウルフ,14世紀チョーサーの作品でも言及されています.私が愛読する英国歴史ミステリー,「修道士カドフェル」シリーズは12世紀前半が舞台ですが,ここでもミードが愛飲されています.

 ミードの基本成分はハチミツ,水,それに酵母.ハチミツは単糖類が多く含まれているので,水で薄めれば発酵しやすく,ホップやブドウを入手できない時代や場所でもアルコール飲料を比較的簡単に作れました. それがミードの起源です.イギリスではハチミツを甘味料として確保すべく,発芽した穀物をつかう穀物酒(エール)が庶民向けに作られたけれど,支配者階級はもっとおいしいミードを飲み続けていました.でもミツバチは自分たちの巣を守ろうと,ハチミツを奪いに来る人を果敢に攻撃しますよね.痛い目に遭わなくても別のお酒やおいしい飲み物が手に入るなら,そっちに行くのはしかたがない.

 アレキサンダー大王のインド遠征でサトウキビから甘い液を得られることを知ったけれど,サトウキビ栽培は欧州では難しく,砂糖はイスラム勢力から入手する超高級品でした.17世紀にカリブ海に領土を得た英国がアフリカ人奴隷による大規模農園での砂糖生産をはじめ,西インド諸島で生産される砂糖が,東インド会社が東洋からもたらす紅茶,コーヒー,チョコレートと共に広く消費される時代の到来.さらに19世紀になるとフランス,ドイツなどで砂糖だいこんから甜菜糖が作られはじめ,砂糖価格が下落.ホップを使ったビールやワインも人々の手が届くようになり,こうして18~19世紀にしだいにミードの存在感が薄れていきました.