蜂ロウ製のロウソク その1

今冬は例年にない厳しい寒波が続きますね.日照時間が短く,暗く寒い時間が長い冬は,いつの時代の人々にとっても,つらく厳しい時期だったでしょう.ふたたび光りがあふれ,植物がみどりを回復し,虫,鳥,けものたちが姿を現す暖かな春の訪れを,みな心から願ったに違いありません.冬の祭りに沢山のロウソクが灯されたのは,明るく暖かな春が巡り来ることを待ち望む気持ちの表れでもあったはずです.

 太古の人々にとってハチミツは,命がけで挑戦するに値するほどの価値を持つ,比類なき品物でした.甘くかぐわしく,安定した完成された形でミツバチの巣に貯められており,人類はとにかく採集すれば,日持ちの良い“液状の金 liquid gold”が獲得できたのです. 

 蜂ロウも同様の宝物でした.蜂ロウはミツバチコロニーが生活する巣の素材として,多数のミツバチがごく薄く小さなロウ片を腹部から排出し,それらを接着したり,かじったりしながら,巣の各部分を形成していったものです.ミツバチは花蜜を集め,巣の中でそれを濃縮加工してハチミツとします.1gのロウを作るのに,ハチミツを6g食べなければならず,ミツバチの膨大な仕事の結果として,防水性や気密性など,すばらしい特性を持つ素材である蜂ロウを,まとめた状態で人類は手にすることが出来たわけです.

 我が国には伝統の特産品として木ロウロウソクがありますが,一般的にロウソク造りには石油製品であるパラフィンの他に,大豆やパームヤシなどの植物性ワックスも使われています.それらは様々な加工処理技術をもちいて,原材料から有用な部分だけを取り出しており,科学技術の進歩によってはじめて私たちが手にした素材といえます.