ハチミツ試食のジレンマ

「特徴あるハチミツの味を比べるテイスティングは英国養蜂協会が1933年に始めて以来,いつでもどこでも大人気のイベントです.地元ウースターシャーのマルバーンで開催される王立園芸協会(RHS)の春のショーには毎回6万人もが集まります.ウースターシャーの多様な植物で生産されるハチミツを通して,ミツバチや植物についての啓蒙活動をするねらいで私たちもRHSのショーに参加し,ハチミツの展示即売とテイスティイングを始めたところ,思いもよらない難問,ジレンマが色々でてきたのです.」イングランド南西部,ウースターシャー養蜂協会のM.クラックネル会長がそこでの内輪話を英国養蜂協会の雑誌Bee Craft に寄稿していました.

 ハチミツ販売と切りはなした企画として,数種のはっきりした特徴をもつハチミツ,たとえばシナ蜜,ナタネ蜜,甘露蜜,それにヘザーハニーの味比べをするのであれば,参加者にそれぞれの蜜の味や舌触りの違いがよく理解してもらえるでしょう.でもそれでは私たちの協会員が生産し,陳列販売している多彩なウースターシャー産ハチミツ瓶からどれを買うべきかの手がかりにはなりません.そのうえ,味比べをした人が,たとえばヘザーハニーが気に入ったので買いたいとおっしゃっても,あいにくそれは売っていませんと伝えることは,私たち販売者にとってもまことに残念なことです.これが学校などでの子ども対象のテイスティングだったなら,シナ蜜,ナタネ蜜,甘露蜜,それにヘザーハニーの4種でとてもうまく行くのですよ.何しろ彼らは,じゃあこのハチミツを買います,とは言わないで,味比べそのものを満喫してくれるのでね.

 販売ブースで,多様な品揃えの中から数種の瓶が開封されたとしますね,生産者が自分のハチミツを試食用に無償提供してくれたわけです.ここでもまた悩ましい問題が発生だ.購買者はどうしたって味見した中から選びますから,試食瓶を出した生産者のものばかりが売れていき,それ以外のハチミツの動きが止まりがちになる.このような事態は協会員の中にわだかまりを残し,来年以降ハチミツの出品や,展示や試食の手伝いを躊躇する人がでかねません.では,出品者全員から一律に試食用の一瓶を提供してもらうのが望ましいのでしょうか.

 養蜂協会は多くの会員にハチミツ販売を呼びかける一方,売り上げから一部を徴収して協会の基金に組み込みます.ある養蜂家が売り出せる蜂蜜はほんの数瓶しかないときに,そのうち1瓶は試食用に提供してください,さらに協会への上納金も必要ですと聞かされたら,とても出品する気にならないでしょう.小規模養蜂家からの出品はどうしても限定されます.

前回RHSのショーにはウースターシャー産ハチミツを19種陳列し,そのすべてが試食できました.19種全部を食べ比べたいという人の割合は低かったけれど,試食した方たちは確かに「ハチミツを買う前に試してみる」機会を喜んでいました.